[書評]「つくりかたの未来」とこれからの製造業を考えるFabLife/田中浩也著


工場の設備の有効活用や新しい商品のアイデアを考えるときに、この頃パーソナルファブリケーションという言葉が気になっています。

自分も製造業の会社としてこれからの「つくりかた」を考えたときに、いまよりもっと「つくる人」というより「作りたい人」と一緒に商品開発やアイデアを共有することってすごく効果的なんではないかなと思っています。

今回ファブラボの日本における発起人でファブラボ鎌倉の田中さんが書いたFabLifeがでたので、早速購入しました。

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ちなみにファブラボとは

すべての人がものづくりをすることができるように、「デジタル工作機をシェア」し「実際に顔を合わせて、つくるための知識、スキルの交換、共有を行う」市民工房であり、国際的なネットワークとして世界各国にできてきた施設であり、いまや30を超える国の70箇所以上の拠点にまで広がりをみせています。
ファブラボの「ファブ」は「FABication(ものづくり)」と「FABulous(愉快な、ステキな、楽しい)」という2つの言葉から作られています。
FabLab Japan

この本は決してFabLaboの宣伝などではなく、すべての人に「つくる」ことの楽しさや参加する意義について書かれているので、特定の業種や特別な人のための本ではありません。

僕も今は布の印刷というちょっと特殊な世界で印刷業をしています。その前は、広告代理店で宣伝物やノベルティーなどを「依頼し指示」することで作っていました。いざ製造の現場に入ってみると、依頼して普通に納品されているものが、これだけの人の手とノウハウの塊によって創り上げられているんだという本来「当たり前」であることに気づいたものです。

この本でも20世紀型の製造業が「大量消費・大量生産・大量破棄」が生み出した、「作る人と使う人の極端な分断」について触れられています。まさに僕が感じていたことはこのことでもありました。

ファブラボは「つくる人」と「つかう人」の極端な分断を修正しようとする活動で、「まなび(Learn)」「つくり(make)」「わかちあう(Share)」のサイクルが哲学となっている。 製造設備を触媒にした状況下では「アマチュア」という言葉は「素人」ではなく「自由な発想で可能性を開拓する人々」となる 一度会って意気投合してしまえば後はネットでいくらでも繋がるやり方があるのが現代である。「トランスローカル」や「顔の見えるグローバル」とはこういう感覚なのかもしれない

僕は通常、東京のコワーキングスペースでノマド営業所として営業活動をしているのですが、僕が本来コワーキングに求めていたものってまさにこういう事だったのかもしれません。会った人に自分の仕事の話をするときに、具体的な商品名をあげて、「のぼりを作っています」というのではなく、「布の印刷をして広告幕を作っています」というのとでは人の反応が全く違う事を感じています。

「のぼり作っています」みたいな取扱い商品名を言うのでは無くて、「布の印刷をしている」という設備から生み出す物について話すと「こんなものできるの?」とか「こういうモノがあると嬉しいよね」というようにいろいろな自由な新商品だったり、新しい市場のアイデアをもらえる事が増えてきました。

こういう考えやアイデアこそが、製造業の中の人だけでは到底思いつかないような「自由な発想で可能性を開拓してくれる」最高のアイデアだったりします。

「比較的過去から存在した技術」は長い淘汰を乗り越えてきた残ってきた価値があり、「比較的最近になって生まれた技術」には「未知である(やってみなければ、まだわからない)こと自体」に価値がある。取り出し方によってはどちらにも「有用な」技術であり、どちらもがお互いを再発見できる関係になるだろう。

まさに今デジタルファブリケーションが発達したことで、うちの会社でも昔ながらの職人のシルクスクリーン印刷から、アイデア次第でいろいろな可能性を広げることができる、インクジェットにおけるフルカラー染色へと変わっていきました。

そんな時代に印刷をしていると、価格競争で一円でも他社より安くすることに目が行きがちで、体力的にも消耗戦の様子を呈していますが、5年後10年後30年後のことを考えると、こういううまくいくかどうか分からないような混沌とした商品開発にチャレンジする事が重要なんだろうなと再認識することができました。

個人的雑感

たとえば、渋谷のFabcafeのようなクリエイターではない普通の人でも工作設備を使える場所があることで新しい価値観のモノが生まれる場所になったり、この本を書いた田中さんのFabLab鎌倉や岐阜の大垣にあるf.laboのような新しい価値観をもった空間が増えてくるんだろうなと思っています。

うちの会社も8月末にインクジェットの工場を新設するので、Fab的な考え方を取り入れて、OPEN Factory としてOPENイベントをしてみようかななんて話しているところです。

他にもこんなおすすめ本あります。

コミュニティデザイン全般についてまとめられていて、Fabについても触れられています。もっとソフト面の情報もあって面白い本です

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